新しい仕事への不安と、うつで休養していた間のこと

朝からずっと、胸が押しつぶされそうな不安で落ち着かない。

水曜日、仕事が決まった。

木曜日、給与の振込みが8月までないことが判明、パニックに。

金曜日、再就職手当でどうにかなりそうだと安堵。

そして今日、根本的な不安に立ち返ることになる。

うつで仕事をやめ、5ヶ月家に引きこもっていた私が、いきなりフルタイムで働くことができるのか?

 

去年の12月、私は体調不良でまともに出社もできない状態だった。

当時常駐していた会社の配慮で、昼に這うように出勤し20時まで働かせてもらう、まともではない勤務でかろうじて仕事をしていた。本当にこんな我が儘を聞いてもらえて、ありがたいことだったと思う。恵まれていた。しかしそこまでしてもらってもなお、苦しかった。

その時には既に年内で会社を辞めることが決まっていたため、そのゴールを目指して、なんとか最終日まで耐えるのが精一杯だった。

 

そして仕事を辞めた後の2ヶ月以上、ほとんどの時間をベッドの上で過ごした。

どこか痛むわけでも、嘔吐するわけでもない、ただひたすら気分が悪かった。不眠のため寝てやり過ごすこともできず、最後の就業日以降の3週間ほどは、意識が朦朧としていて記憶にも残っていない。気がつけば、部屋の中でベッドの位置が大きくずれていた。相当のたうち回ったらしい。

 

辞めた直後は、体調が悪すぎて「私はこのまま死ぬのだ」と思っていたので、この後どうする・どうなるという心配は一切頭になかった。

それでも1月の半ば、体を引きずるようにしてハローワークに行き、失業手当を受給する手続きだけはしたあたり、生に未練はあったのだろう。

当時はこれからの生活よりも「どう自殺するか」について考えていた。だいたいのプランは頭に描けたが、体が動かない。そして結局、死ななかった。死ねなかった。「死ぬ」と口にする人間ほど死なない、というのは私に限って言えば正しい。ただ、その頃の私は誰にも「死にたい」と伝えられていなかったけれど。

 

気力と体調が上向いてきたのは3月に入ってからのことだ。

一時的な上昇なら2月頭にもあったが、そのときはすぐに落ち込んで、ベッドから起き上がれない日々に逆戻りした。「やっぱりダメだった」「なんで」「どうして」全身をぐるぐると廻る絶望に支配されたまま2月が終わり、そして春がやってきた。

 

外に散歩に行こうか、そう思えるようになったのは、桜の枝にたわわな蕾が実る頃のことだ。

15分ほど歩いた場所に、大きな緑地公園がある。前からそこに散歩に行き、背の高い木々を見上げてぼんやりするのが好きだった。社会復帰へのリハビリのため週2~3回、1日置きに散歩に出かけることにした。もう少し体力がついたら、スポーツジムに行こう。そして体力をつけて、4月から就職活動をしよう。

生きていこう。公園のベンチでぼんやりしている内に、いつの間にかそう決心していた。体調不良はもう消えて、頭の中も数ヶ月前までが嘘のようにすっきりしていた。

 

近くのベンチでは、お年寄りが3人集まって世間話をしている。「コロナウイルス、怖いですね」「どうなるんでしょうね」

 

そして4月、緊急事態宣言が出て、外出すらままならなくなった。他の国のように実際に監視されているわけではない、が、やはり散歩に出て外をうろつく気にはなれなかった。あてにしていたスポーツジムも休業した。

予想だにしなかった事態に、私は激しくうろたえた。こんな時期に就職活動をしていいのか? 企業に非常識な奴だと思われるのでは? そもそもこんな時期に求人はあるのか? 飲食店の倒産が話題になる。感染者は右肩上がりに増加し、収束する未来が見えない。

 

それでも預金の残高を見れば、今仕事を見つけるしかないと思った。転職サイトやエージェントに登録し、片っ端から応募し、ほとんど落とされ、失望の中、最初に内定をもらった仕事にそのまま決めた。本来やりたい仕事ではなかろうが、非正規だろうが、自分に選ぶ権利があるとは思えなかったからだ。

 

そして今、実際に新しい仕事が始まろうとして、ふと我に返っている。

あれだけ恵まれた職場をうつで脱落した私が、2ヶ月以上ベッドの上で過ごした私が、この5ヶ月間ほとんど家から出ていない私が、いきなり満員電車(今はだいぶ空いているという)に乗って、フルタイムで週5で働けるのか?

 

生きると決めた途端、金と仕事のことで頭がいっぱいになってしまってここまできたが…私は今更、「まともな生活」に戻れるのだろうか? たった半年前、あんなにぶっ壊れていたくせに。体力はどれだけ衰えているのだろう? そもそも私の頭の中は、仕事ができるほど正常なのか?

 

でも、もう走り出してしまった。来週の月曜日から出勤だ。幸い職場の環境は良さそうだし、私のスキルでもこなせる仕事のようだ。

とにかくやってみるしかない。もしダメだったら…その時、改めて考えよう。