みんなが本当に欲しいもの

http://kanacky.hatenablog.jp/entry/2013/12/18/093423
はてブ経由でこちらのblogを読ませていただいた。
で、もう10年も昔の私がまだ20代前半でピチピチ(……)していた頃、地元の家電量販店でメーカー販売員の短期派遣をやった時のことを思い出したので、書いてみる。

その昔、某大手家電量販店で店員のふりをして接客し、メーカーの手先としてさりげなく自社商品へ誘導するというセコい販売員をやっておりました。あまりのセコさに後に世間様から吊し上げられ、表向きは禁止となった販売方法でございます。今もやってんのかなあ? メーカーのマークつけた人が販売応援してるのは見るけど、店員に偽装した派遣はもうないのかな?

私は主に冷蔵庫と洗濯機を担当していたんだけど、冷蔵庫売り場に来るお客さんは、とても楽だった。
何が楽って、まず一目で冷やかしかどうか判断がつく。さらに、冷やかしでない客は、このまま購入して帰ることが多い。
なぜならみんな、今使っている冷蔵庫が壊れてから、新しいやつを買いに来るからだ。「前からこの冷蔵庫、欲しいと思ってたの!」みたいな浮かれた客には、三ヶ月の業務中(ただし休祝日のみ)ついぞ会わなかった。
「冷蔵庫、なんで壊れてしもたん…」「思わぬ出費が…」と、突然の悲劇に困惑した表情の夫婦or家族連れがきたら、まずお買い上げ確実である。

すでに「冷蔵庫が壊れた」という残酷な現実と一戦交えてきたお客さんたちは、売り場に辿り着いた時にはすでに疲れた顔をしている。そこで待ち受ける、白や銀色の巨大な箱・箱・箱。
その日が来るまで冷蔵庫の新製品など気にしたこともない人の目には、どれも同じような箱に見える。でも彼らは今、この中から納得のいく理由をもってただ一つを選別し、決して少なくはない対価を支払わねばならない。
居並ぶ冷蔵庫を呆然と見つめる哀れな迷い人たちの背後にそっと忍び寄る影。「冷蔵庫、お探しですか?」それが私! みたいな。すみません、調子に乗りました。

困惑するお客さんから、商品の希望を聞き出し、マッチングする(フリをして、なるべく自社メーカー製品に誘導する)のが私の役目だったわけだが、「どんな冷蔵庫がいいですか?」と聞いてみたところで、即答できる人はまずいない。たいていのお客さんは、通路の両側にずらりと立ちふさがった冷蔵庫の群れを見回し、「うーん…」と口ごもる。そして、悩んだその挙げ句、こう答えるのだ。

「なるべく壊れないやつ?」

うん、壊れたから買いに来たんだもんね!一番にそう思っちゃうよね!

他の家電製品ならきっと、答えをぱっと思いつきやすい。「スチーム機能のあるレンジ」とか、「ドラム式の洗濯機」のように。ところが冷蔵庫は、基本、中身の冷える箱である。しかもその技術に関しては、どこのメーカーも完成しきっている。チルドがどうとか野菜室がどうとかなんて、小手先の新機能でしかない。どれでもええやん、台所に収まれば!

ですよねー、大丈夫ですよー、国内メーカーならそう簡単に壊れませんからねー等と世間話的なトークをしていると、「この客はいける」と思った家電店の社員がささっとこっちに近づいてきて、話に混ざってくる。「この客は俺の売上になる、お前は冷やかしの相手でもしていろ」の合図だ。こうして小娘(当時)はお客様の前からにこやかに引き下がり、30~40代、キビキビ話して商品知識もありそうな店員が、改めて問いかける。「どのような商品をお探しですか?」
すると、さっきまで私と和やかに談笑していたお客さんは、ちょっと緊張した面持ちで答える。

「そうですね、やっぱり新しい機能が付いたものとか…」
Σ(゚Д゚)(さっきと言うてることちゃうやん!) <私

相手が百戦錬磨(に見える?)の店員さんだと、ちゃんとしたこと言わんといかんような気がするのだろうか?


そんなやりとりがさらに、店員からメーカーの営業さんに、こんな形で伝わるのも目撃した。
「他社さんの新しい機能、評判いいよ? おたくも次の新製品につけなよ?」「そうなんですか…?」

こうして、
客「(基本的な性能が揃ったことが前提の)壊れない・丈夫な製品が欲しい」
店員「お客さんは目立つ新機能に目が行きやすい」
メーカー「新商品には、売りになる新機能をつけなければ、売り場で力を入れてもらえない」
という、どうしてこうなった的な伝言ゲームが発生していた。

店員やメーカーに悪意があるわけではもちろんない。売上げのために客のニーズに応えたいという誠意はちゃんとある。私はメーカーの営業さんから「うちの製品、基本的な性能はほんとにいいんだよ! そこは自信持ってお客さんに勧められるんだ!(でも他社に比べて、目新しい機能が地味)」という熱い語りも聞いた。

「いいものが欲しい」「いいものを売りたい」「いいものを作りたい」みんなそう思っているのに、どうして肝心の「いいもの」を共有できないのだろう? 販売員をやっている頃、それが本当に不思議だった。
(その橋渡しができる仕事をやりたいな~と思って、その後、営業職に転職したりもしたけれど、色々あって今はただの事務のおばちゃんです。…若かったな…)



今回の宿題

  • お客さんと製造現場と販売店の話、営業やってるときに考えたことも交え、もうちょっとつきつめて書く