引っ越しのこと 2 (部屋探し編)

前回の続き

猫が飼える部屋を探すと決めたものの、東京に土地勘が未だになく、どの当たりで探せばいいのか見当もつかない。
南側に住んだから、今度は西側にしよう、程度にざっくり当たりをつけ、後は賃貸住宅サイトで検索してみることにした。

とりあえず、30分で山手線に接続できれば何とかなるだろう。(この考えは甘かったと、今では心底思う)
で、新宿駅池袋駅まで30分、管理費込み7万円まで、風呂トイレ別、2階以上、室内洗濯機置場あり、もちろんペット可の物件で検索をかけてみた。
そこで出てきた物件に目を通している内に、ペット可でも「室内犬のみ」が多い、さらに猫可でも一匹だけという条件付きの物件がほとんどであることに気づいた。

一人暮らし、しかも平日昼はフルタイムで仕事に出ているわけだから、1匹だとさすがに留守番が退屈だろう。
飼うなら2匹だな、と思っていたところだったので、戸惑った。
室内の被害を心配するにせよ、1匹も2匹も同じじゃねえの? 大家さんの気持ちもわからなくはないけど…そう思いつつ、2匹飼える部屋を選ぶと、残ったのは「多摩センター」周辺、東武東上線「ふじみ台」周辺、それから「所沢駅」周辺の物件だった。

中でも所沢の物件のひとつに、気になる写真が掲載されていた。
洋室の窓を撮影した写真だったが、窓の外に大きな木に吊された提灯と、鳥居らしきものが写っている。神社があるんだな、とGoogleMapで確認してみたところ、建物の真裏が神社だった。
神社のある生活ってどんなもんなんだろうな、と好奇心がうずき、ちょっと冷やかしてみようと内覧を申し込んでみた。
実際に見に行ってみて、窓のカーテンを開けた瞬間、「あ、ここに住みたい!」と強烈に思った。

窓のすぐ外を、鳥居が横切っている。といっても神社本殿の奥にある、ちいさな分社らしきもののための小さめな鳥居だった。
小さな分社のさらにその向こうには、こんもりと緑が茂った畑(後で見に行くと、茶畑だった)、さらにその先には雑木林。
こういうのを借景と言うそうだが、都内ではとてもお目にかかれない緑の風景だった。
正直、都内の人造とはっきりわかる「設計された緑」に辟易していた私は、この風景に一目で惚れ込んでしまった。

悩んだのは一晩だった。大家さんが動物好きと言うことで、猫も多頭飼いできる。家賃は予算内なのに、なんと2DKで45㎡という広さ。
15㎡の狭小アパートにいいかげん鬱々としていた身には、なんと素晴らしい物件だろうと舞い上がってしまった。

翌日には不動産屋に連絡し、契約の日を決めていた。今思い返しても、無謀にも程がある。
夏に、失踪したいとか馬鹿なことを考えていた反動で、冷静な判断ができていなかったんじゃないかと思う。
けどまあ、失踪するよりは格段にマシな選択だったのも確かだ。